正直、自分が女装をするようになるなんて、昔の自分には想像もつかなかったと思います。
でも今は、メイクをして、服を選んで、ウィッグをかぶって鏡を見るその瞬間が、
人生の中でいちばん「素直な自分」に近づける時間かもしれません。
私はこれまで、男として生きてきました。
明るく振る舞い、人を笑わせ、ムードメーカーとして周囲と関わってきました。
けれど、心のどこかでずっと「本当の自分は違う気がする」と思っていました。
社会人になってからは、その違和感に気づく余裕すらなくなっていました。
無理を重ねて、気づけばうつ病になり、心も体もすり減っていたのだと思います。
そんなとき、軽い気持ちで女装を始めました。
最初はただの興味でした。でも――
服の裏地のつるつるとした感覚。
メイクで少しずつ表情が変わっていく感覚。
それが、自分にとってすごく心地よかったのです。
驚いたのは、鏡に映る自分を「嫌いじゃない」と思えたことでした。
それまでの私は、ずっと“こうあるべき”に縛られていました。
「男らしく」「社会人らしく」「父親らしく」
そういう言葉が、自分を押しつぶしていたんだと思います。
でも女装している自分には、誰もそんな“らしさ”を求めてきません。
ただ、“自分がどう感じているか”だけを大切にしていい。
それが、初めての感覚でした。
もちろん、社会にはまだ偏見もあります。
「逃げてるだけ」「現実逃避だ」と言われたこともあります。
でも、私はそうは思いません。
私にとって女装とは、“自分を見つめ直すための手段”でした。
そしてそれは、自分にとって確かに救いだったのです。
今でも「これが自分の本質だ」と断言できるわけではありません。
ですが、はっきり言えることが一つあります。
女装しているときの私は、ちょっとだけ自分のことを好きでいられるのです。
それだけで、充分だと思っています。