「スナックを手伝わせてください」
そんな一言から、まさか自分の新しい居場所が見つかるなんて思ってもいなかった。
2024年、夏。
女装を始めて数ヶ月が経った頃、ふとこう思った。
「この姿のまま、どこまで人と繋がれるだろう」って。
派手なギャルメイク、スーツのようなドレッシーなワンピース、低めの声。
女でも男でもない“ぽんちゃん”という存在が、誰かの役に立てるならそれはきっと面白い。
目次
■ きっかけは、地元スナックへの電話一本
昼下がり。誰もいない時間帯を狙って、近所のスナックに電話をかけてみた。
「こんにちは、突然ですみません。私、女装して活動してる者なんですが、お店のお手伝いさせてもらえませんか?」
最初は怪しまれた。そりゃそうだ。
でも話していくうちに、ママがぽつりと「ちょっと面白そうね」と言ってくれた。
夜の世界は、新しい風に少しだけ寛容で、同時に慎重でもある。
だからこそ、こちらも誠意と覚悟を持って臨まなきゃならない。
■ “営業”というより、”恩返し”
実はこの行動、ただの「売り込み」じゃない。
私の中では「恩返し営業」という感覚が強かった。
ママたちは長年、お店を守ってきた。コロナ、景気、街の変化。
すべてを受け止めながら、常連さんの愚痴も夢も、酒の席で聞き続けてきた。
その背中はカッコよくて、でもとても孤独でもある。
「少しの時間、話し相手になるだけでいい」
「店のチラシを配るお手伝いでも、SNSのことを教えるでもいい」
私は”助けたい”というより、”一緒にいたい”のかもしれない。
そこにある人間らしさに惹かれてしまった。
■ 手伝い内容は、ぜんぶ即興
お手伝い初日は、夜の開店準備。
氷の袋をバケツに詰め、テーブルを拭き、グラスを並べる。
その合間に、ママがぽつりぽつりと話してくれる。
「昔はね、もっとこの通りも賑やかだったのよ」
「お客さんが話すこと、だいたい同じなの。でもそれでいいの」
私はただ頷きながら聞いていた。
なにか特別なスキルがあるわけじゃない。
でも「いること」が一つの価値になる。
それは、ライブ配信やSNSでは決して体感できない、温度のある時間だった。
■ 女装していると、心の壁がなくなる不思議
「あなた、男?女?どっち?」
最初はよく聞かれる。
でもしばらく一緒にいると、そんなことはどうでもよくなってくる。
お客さんの悩み、ママの夢、スタッフの本音。
なぜかみんな、ぽんちゃんには心を開いてくれる。
女でもない、男でもない、でも“人間っぽさ”がにじみ出ているからかもしれない。
むしろ、どっちつかずの存在のほうが、人の本音を引き出す力があると感じた。
これは想定外のギフトだった。
■「また来てくれる?」と言われた夜
一通り手伝いを終えた深夜、ママが笑って言ってくれた。
「アンタ、また来てくれる?次はお客さんの話し相手にもなってよ」
なんだろう、この感覚。
まるで、自分の存在が誰かに認められたみたいな。
営業しているのに、ありがとうって言われる不思議。
ここに、自分の居場所ができつつあるのかもしれない。
もちろんお金はもらっていない。でも、やりがいは100倍ある。
この活動が広がれば、地域も活気づくし、ママたちの笑顔も増えるはずだ。
■ 最後に
私がスナックを手伝う理由は、”稼ぎたい”ではない。
“残したい”とか”繋ぎたい”という想いが強い。
地方のスナックは今、どんどん消えている。
でもそこには、地元の人しか知らないドラマが詰まっている。
女装という姿で飛び込むことで、今までの「常識」が溶けていく。
「面白い」「ちょっと変わってる」「でもなんか応援したい」
そんな気持ちを巻き起こすきっかけになれば、それでいい。
スナックお手伝い。それは、単なる営業じゃなくて、
「人と人とのご縁を繋ぐ、新しいカタチの恩返し」だ。